保険の基礎知識
昔に契約した古い生命保険があります。乗り換え・見直しが必要な場合やその際の注意点はありますか?

北野 沙良さん(仮名 45歳 会社員)のご相談
親が善意で加入してくれていた生命保険がいくつかあり、そのまま引き継いで25年経ちました。何か見直しは必要ないでしょうか?最近は予定利率が上がってきているようですが、古い保険にも関係があるか知りたいと思います。
北野 沙良さん(仮名)のプロフィール
職業・年収 | 貯蓄額 | 住居の形態等 | |
---|---|---|---|
本人(45歳) | 会社員・450万円 | 2,800万円 | 持ち家(マンション) ローン残債あり 団信保険に加入 |
夫 (48歳) | 会社員・500万円 | ||
長女(15歳) | 中学生 |

井上 信一
(いのうえ しんいち)先生
ファイナンシャル・プランナーからの
アドバイスのポイント!
- そもそも必要な保障なのか、契約形態等に不具合がないかを確認しましょう
- 保険の種類によっては、「保障内容」が時勢にあわなくなるタイプのものもあります
- 保障を見直す場合は既契約を十分に活かせる方法を検討しましょう
長い付き合いとなる保険契約では、適宜、メンテナンスも必要です。その際に確認すべき6つのポイントを理解しましょう
北野さま、ご相談ありがとうございます。
古い保険契約の中には、適宜、大掛かりなメンテナンスを要するものもあれば、最低限の見直しや既契約を活かして継続するのが良い場合もあります。既契約の見直しのポイントを整理してみましょう。
保険契約のメンテナンスの要否のポイント
長くて数年程度の契約期間の損害保険と比べ、生命保険の保険期間は長きに渡るのが一般的です。契約時には最新の保障(補償)内容であったり適切な保障額や保障期間であったりしても、長い契約の中では、乗り換え(新規で契約をして既契約を解約すること)や各種見直しが有益な場合もあります。
年齢・家族・住まい・働き方等の変化により、ライフステージやライフプランは往々に変化するものです。それを根底から壊してしまう可能性のある「有事」に備える保険も、適宜、見直す必要があります。
しかし、基本的に保険契約は中途解約や中途見直しでは不利になる場合も少なくなく、いったん見直しをした後は元に戻すことが難しいのが悩ましいところ。既契約のメンテナンスは慎重に検討することが大切なのです。
以下では、既契約保険の契約内容のどこに注目すればよいのか、その代表的なポイントを例示してみました。
- 契約者関係
契約者と保険料負担者が同一人であるか、保険金受取人が適切な家族であるか - 保障(補償)内容
保険金支払事由の対象となる支給要件や保障(補償)対象が陳腐化していないか - 保障(補償)額
契約当時と比べて保険金額が過大または過小でないかどうか
既払込保険料総額・今後の保険料払込予定額と、今後の保険金額の推移に問題はないかどうか - 保障(補償)期間
契約当時と比べて保険期間が長すぎるまたは短すぎないかどうか - 保険料率
契約当時と比べて保険料率(特に予定利率)が不利でないかどうか - 解約返戻金額
既払込保険料総額・今後の保険料払込予定額と、今後の解約返戻金額の推移に問題がないかどうか
例えば、損害保険分野でも、ほんの10年ほど前までは、住宅ローンの返済期間に合わせ保険期間30年超の火災保険に契約することができました。現在の火災保険では、災害等で建物や家財が損害を被る補償範囲を必要な分だけに狭めることができるほか、契約可能な保険期間が短期化しているため、建物等の実態の評価にあわせた保険金額で、適宜、更新することが可能になっています。旧来型の火災保険では、長い保険期間中、次第に補償内容も補償額も、適切ではなくなっていたことでしょう。古い保険のメンテナンスが必要であることを説明してくれる典型的な例です。
一方、生命保険の場合、後述するように保険種類により少々事情は異なりますが、真っ先にチェックしておきたいのは、「契約者関係」が適切であるかという点です。契約当時に独身であった場合、結婚後も保険金・給付金の受取人や指定代理請求人等が親のまま放置されているケースを時々見かけます。家族ができたのであればこれらを配偶者や子に変更しておかないと、後々、保険金等の請求時に面倒です。
また、死亡保険金受取人が親のままで、その親の死亡後も受取人の変更をしないうちに保険金事故が起きてしまうと、死亡保険金は、既に亡くなっている親の法定相続人が受け取ることになり、自分の家族に十分には残せません。ほかにも、契約者と保険料負担者が同一人であり、自分(または配偶者)となっているのかも確認しておくと良いでしょう。
乗り換えを検討するのが良い場合もある既契約
生命保険の中でも、医療保障保険や介護保障保険は、比較的、商品性のトレンド変化が激しい分野といえます。これは医療技術の日進月歩などに直接影響を受けるためです。例えば、以前には存在しなかった新しい手術は数多くありますし、外科的手術以外の様々な治療法も登場しています。ガン治療の最前線もそのひとつです。
保険商品としても、入院保障や手術保障中心であったものが、診断給付金や各種治療給付金のように、入院時以外にもかかる費用負担を幅広く保障する商品性がトレンドの中心となっています。また、治療方法が多岐に渡ると共に、医療費用が高額化する場合もあります。こうした現状も踏まえ、支払われる保険金が実損てん補方式で補償されるタイプの商品が医療保障保険やガン保障保険で登場しています。
最新の保険商品の内容を確認し、自分の古い契約の「保障内容」で現代の医療事情に十分に対応できているのか、入院中しか保障されない保険でも大丈夫なのか、「保障額」は足りているのか、比較する価値は大いにあるでしょう。
同様のことは介護保障保険にも当てはまります。介護保障保険の保障内容が多様化し充実してきたのはここ数年です。古い保険では支給要件が厳しめなものも少なくなく、要介護状態となっても保障を受けられない事態になることもあり得ます。また、要介護状態となる可能性が高まる後期高齢期こそ介護保障が必要となるため、終身保険タイプか有期保険タイプであっても長めの保険期間が求められます。しかし、昔の保険では保険期間が短めの有期保険であることも多く、必要時期まで更新ができなかったり更新後の保険料が相当に割高になったりするなど、適切な「保障期間」を満たしていない場合も考えられます。
既契約がこうした内容の保険であっても、一部の保険会社では、新しい保障内容への切り替えや、必要な保障を特約付加の形でリニューアルできる場合があります。もしも、ミニマムなリニューアルを行えない場合には、現在の年齢や保険料率で保険料が再計算されることになりますが、健康状態等に問題がないのであれば、契約を乗り換えるのも選択肢として考えられるでしょう。
既契約を継続するのが良い場合、既契約を活用した見直しが良い場合
医療保障保険や介護保障保険と比べ、終身保険や定期保険などの死亡保障保険、養老保険や個人年金保険などの貯蓄性も兼ねる生死混合保障保険などでは、「保障内容」が昔と大きくは変わってはいません。保険期間中に死亡した場合や一定年齢まで生存している場合などと、保険金支給要件がシンプルなためです。
これらの場合は「保障内容」を気にするよりも、そもそもその保障がまだ必要なのか、「保障額」が過大もしくは過小となっていないか、「保障期間」が適切か(有期保険の場合は保険期間満了後にも保障継続の必要性がないか)を重点的にチェックすることが大切です。
もし、保障そのものが不要であれば、解約も考えられますが、以後の保険料負担をなくして一定額の死亡保障等を継続させる方法もあります。何かしらの見直しが必要な場合は、できるだけ既契約を活かした方法を検討しましょう。
その際には、既契約の「保険料率」や「解約返戻金額」を確認することをお勧めします。保険の契約においては、加入中の保険の支払保険料の計算に関わる予定利率等の保険料率が途中で変わることはありません。しかし、解約や減額をすると当然、従前の適用は消失する一方、新規乗り換えや増額する場合はその時点での保険料率で保険料が再計算されます。
既契約を活かした見直しをする場合でも、見直し前の予定利率等を引き継げるものと引き継げないものとがあり、どういう見直しが有利なのかが異なってきます。昨今では予定利率が以前より上昇傾向にはありますが、北野さまのご契約のように25年前と比べると、現時点ではまだ当時の予定利率には及びません。となると、見直し前の予定利率を見直し後に引き継げる方法が有利といえます。また、既契約の解約返戻金を見直し後の契約に活かせる場合もあります。
下記を参考に、適した見直し方法を検討してみましょう。
既契約の代表的な見直し方法 | 有利となる場合またはメリット | |
---|---|---|
中途増額 | 増額部分の保険料は現時点の年齢・保険料率で計算 | 最低限の工夫で見直しができる |
中途減額 | 減額分だけ以後の保険料が低減 解約返戻金があれば払い戻される |
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転換(契約転換) | 既契約の責任準備金等を新契約の保険料の一部に充当する乗り換え方法 変更時の年齢・保険料率で保険料が再計算され、告知・診査が必要 |
既契約の予定利率等は引き継がないため、契約時より見直し時の予定利率が高い場合には有利になる場合もある |
変換(コンバージョン) | 既契約の保険種類から異なる種類の保険に変更させる方法 変更時の年齢・保険料率で保険料が再計算されるが告知・診査は不要 |
健康上の問題がある場合等でも、定期保険や収入保障保険のような有期タイプの保険を終身保険に変更し保障を継続できる 変更後の保険金額をコンパクトにして保険料負担の上昇を防ぐことも可能 |
払済保険への変更 | 既契約の解約返戻金を一時払いの終身保険等に変更させる方法 変更後の保険額は概ね小さくなる |
既契約の予定利率を引き継ぐため、高予定利率の保険を、以後の保険料は不要で継続できる |
移行(保障内容変更制度) | 終身保険の保険料払込満了後に、死亡保障の全部または一部を年金受取や介護保障に変更させる方法 | 死亡保障を減らしても良い場合に、その一部等を老後資金の一助に切り替えられる ※介護保障への移行時に告知・診査が必要かどうかは保険会社で異なる |
ご両親から引き継いだ大切な保険契約です。
この先の生活にも必要な保障であり続けられるよう、愛情をもってメンテナンスをしましょう。
