保険の基礎知識
医療保険の特約で見かける『先進医療』って何ですか?

菊田 亜衣さん(仮名 39歳 会社員)のご相談
現在、医療保険の加入を検討中ですが、各保険会社の資料に「先進医療特約」という特約があります。「先進医療」とはどのようなものでしょうか。いわゆる「自由診療」とは違うのでしょうか。わかりやすく教えていただけたらと思います。
菊田 亜衣さん(仮名)のプロフィール
| 家族構成 |
|---|
| 本人 39歳 会社員(独身) 年収 340万円 個人年金のみ契約あり。 医療保険は未加入の為、医療保険への加入を検討中。 |
髙柳 万里
(たかやなぎ まり)先生
ファイナンシャル・プランナーからの
アドバイスのポイント!
- 先進医療の技術料にかかる部分については原則自己負担となります
- 先進医療を受けるには各種条件がある為、事前に主治医との相談が不可欠です
- 治療の選択肢の幅を広げる為に、先進医療特約は検討の余地があります
先進医療とは、厚生労働大臣が定める高度な医療技術のことです。対象となる疾患や症状等、および実施する医療機関が限定されています。
菊田さん、この度はご相談ありがとうございます。先進医療につきましては、言葉は聞いたことがあっても、実際のところはよくわからないという方が多いようです。それでは、先進医療についての概要、治療の流れ、がん治療などの具体例も交えて解説します。
先進医療とは
「先進医療」とは、厚生労働省が定める高度な医療技術で、まだ一般的な公的医療保険(健康保険)が適用されてはいませんが、安全性・有用性がある程度評価されており、今後保険適用の検討対象となるものです。
- 〈主なポイント〉
- 実施できる医療機関・適応疾患・技術が限定されています。
- 治療を受ける場合、通常の保険診療の範囲(診察・検査・入院・投薬など)は保険適用になる場合がありますが、「先進医療」の技術料部分については 原則として全額自己負担となります。その為、先進医療の種類によっては自己負担金額が高額となる場合があります。
自由診療との違い
先進医療と、よく混同しがちな自由診療のおもな違いを、以下の図にまとめました。
| 比較項目 | 先進医療 | 自由診療 |
|---|---|---|
| 認可 | 厚生労働省が認めた技術 | 医師や医療機関の判断 |
| 保険の扱い | 一部保険適用(混合診療可) | 全額自己負担(混合診療不可) |
| 目的 | 新技術の有効性を確認する | 自由な治療・美容・未承認医療等 |
| 費用負担 | 技術料部分のみ自己負担 | 全額自己負担 |
つまり、厚生労働省が認可した先進医療とは異なり、自由診療とは、すべて自己負担の未承認治療というイメージです。
先進医療を受けるための流れ
先進医療を受ける時の、基本的な流れをまとめました。
ステップ1:医療機関を選び、医師と相談
- 最初に、先進医療を実施している医療機関を確認します。
※最新の先進医療技術名前と医療機関の一覧は、厚生労働省のサイトにて公表されています。(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan02.html) - 主治医と相談のうえ、「この病気・症状に対して先進医療の適用が可能か」「通常の保険診療との併用になるか」などを確認します。
- 実施する医療機関で「先進医療に関する説明」を受け、所定の同意書等に署名する必要があります。
ステップ2:費用負担・保険適用の確認
- 先進医療の技術料部分については公的医療保険の対象外となるため、患者が全額負担します。別途、保険適用となる診察・検査・入院・投薬等の部分は通常の健康保険扱いとなり、一部自己負担(通常3割等)となります。
- 治療を受ける前に、技術料の目安額・支払方法・保険がどこまで適用されるか等を医療機関に十分確認することが大切です。
ステップ3:受診・治療実施
- 所定の医療機関での治療を受けます。
- 先進医療の技術料と、通常の保険部分の費用が混在するので、請求額の内訳をよく確認します。
ステップ4:治療後・支払・確認
- 治療後、医療機関から請求があります。
- 保険外技術料分を支払い、保険適用分は通常の保険制度の支払手続きがされます。
先進医療の具体例と費用の目安
厚生労働省が承認する先進医療は定期的に改訂され、新たな先進医療が追加されたり、現在先進医療とされているものが健康保険適用となったり、効果が限定的とされたものは先進医療から除外されることもあります。近年、がんの先進医療として有名なものでは、陽子線治療や重粒子線治療があります。
- 陽子線治療とは
→がんなどの固形腫瘍に対し、陽子を加速して体外から病巣に照射する放射線治療の一種です。 - 重粒子線治療とは
→がんなどの固形腫瘍に対し、炭素等の重い粒子を加速して体外から病巣に照射する放射線治療の一種です(一部の種類のがんでは、健康保険適用となるケースもあります)。
どちらも、病巣部分にのみ集中して照射できる為、高い治療効果が期待できるとされていますが、専用の特殊な機材や環境が必要なこともあり、日本国内の粒子線がん治療施設は26か所にとどまっています(2025年10月時点)。
また、費用については、神奈川県立がんセンターのサイトには、先進医療として重粒子線治療にかかる費用は350万円と記載されています。陽子線治療にかかる費用は、国立がん研究センター東病院のサイトには約294万円と記載されています。医療機関により多少前後しますが、いずれにせよ、おおよそ300万円程度はかかるとみておくとよいでしょう。
上記の先進医療の技術料部分に加えて入院、検査、薬等、通常治療の部分もかかるため、がん治療で先進医療を使った場合、数百万円以上という高額費用となるケースもあるので、経済的な準備や保険のチェックは重要です。
なお、先進医療の技術料部分に関しては、「高額療養費制度」の対象にはなりませんのでご注意ください。ただし、先進医療を受けた際は保険診療部分・先進医療部分を含めて「医療費控除」の対象になる場合がありますので、病院が発行する「領収書」や「診療明細書」を大切に保管しておきましょう。
先進医療の保障を検討する際のポイント3つ
菊田さんが先進医療の保障を検討する際のポイントをまとめました。
1. 対象治療と病院を確認
先進医療は限られた病院のみで受けられます。ご自分が受ける可能性のある治療や、お住いの地域近辺で利用できるか等を確認しましょう。
2. 加入保険の保障の上限金額を確認
一部の先進医療の技術料は300万円以上になることもあります。給付金額の上限をチェックしましょう。一般的には、『先進医療の技術料と同額まで、通算では2,000万円』を支払いの上限とする保険会社が多く見られます。
3. 保険料と保険期間を確認
加入時は、先進医療特約の保険料は月数百円と割安な場合が多いですが、更新タイプの場合は将来的に保険料が上がる可能性もあります。長期的な保険料負担と保障の継続性を確認しましょう。
「実際に自分が使えるか」「いくらまで支払われるか」「保険料はいくらか」この3点を押さえるのがポイントです。
今のところ、先進医療は誰でも、どこでも受けられる治療というわけではありませんが、いざというときに経済的な負担が軽減される『先進医療特約』については検討されておくことをお勧めします。
医療の技術の革新はめざましく、毎年のように先進医療の対象技術・保険適用状況は変化しています。今後も新たな技術が続々と登場することが想定されますので、定期的に最新の情報をチェックしてみると良いですね。
執筆者:髙柳 万里(たかやなぎ まり)AFP
AFP。福岡県出身。金融教育を受ける機会を得られないまま社会人となり、自身がお金のやりくりに悩んだことから金融リテラシーの必要性を痛感しFP資格取得。親子向けワークショップや小学校等での保護者向け講座、金融教育関連書籍の監修など、子どもたちの金融リテラシー向上のために日々活動中。相談者が「楽しく学んで即実践!」できる提案を心掛けている。





