保険の基礎知識
【FPが分かりやすく解説】生命保険料控除の意味や申告方法をマスターしよう!
生命保険料控除の手続きをするには、控除の仕組みを正しく理解する必要があります。また、生命保険料控除には種類ごとの上限があるため、計算ルールを知って最大限控除枠を活用することが大切です。
今回は、年収と生命保険料の払込額を踏まえたモデルケースを含め、生命保険料控除の基礎知識を分かりやすく解説します!年末調整前に必要書類や手続きについて確認したい方も、ぜひ参考にしてください。
「生命保険料控除」の得する仕組みと対象となる保険
まず、生命保険料控除は「どのような制度なのか」「どのような種類があるのか」について詳しくみていきましょう。
生命保険料控除の仕組み
所得税・住民税は、所得に一定の税率を掛けて計算します。そのため、所得金額を少なくすることが、節税につながります。
生命保険料控除とは、支払った生命保険料のうち一定額を、所得から差し引ける制度です。控除額は一定のルールに従って計算するので、支払った保険料をそのまま控除できるわけではありません。また、生命保険の種類によって、控除額の上限が定められています。
生命保険料控除をきちんと適用するために、また上限の範囲内で最大限控除枠を活用するために、計算ルールを知っておきましょう。
生命保険料控除の対象となる保険
生命保険料控除は3種類あり、上限が決められています。どの種類に該当するかは、保険証券や生命保険料控除証明書に記載されています。
まず、それぞれの内容をみていきましょう。
一般生命保険料
終身保険や学資保険など、生存または死亡に起因した給付にかかる保険料のことです。給付金にかかる保険料も一般生命保険料に含まれます。保険金の受取人が契約者か配偶者、もしくは6親等以内の血族、3親等以内の姻族であることが条件です。また、5年未満の契約である貯蓄保険や団体信用生命保険、財形貯蓄制度に利用される保険などは対象外です。
介護医療保険料
平成24年から制度が変わり、介護医療保険料という枠が新設されました。介護医療保険料は、入院や通院などにともなう給付にかかる保険料のことで、医療保険やがん保険、介護保険などが含まれます。一般生命保険料と同じく、保険金の受取人が契約者か配偶者、もしくは6親等以内の血族、3親等以内の姻族であることが条件です。
個人年金保険料
個人年金保険とは、国民年金や厚生年金とは別に、自分で老後の資金を積み立てる保険のことです。控除を適用するには、「個人年金保険料税制適格特約」がついた個人年金保険に加入する必要があります。個人年金保険のすべてが所得控除の対象になるわけではないため、注意しましょう。
所得控除の対象になる個人年金保険は、次のような条件を満たしたものです。
- 1. 年金の受取人が契約者かその配偶者
- 2. 被保険者と年金の受取人が同一人物
- 3. 保険料の払込期間が10年以上
- 4. 確定年金や有期年金の場合は、年金受取開始年齢が60歳以降、年金の受取期間が10年以上
生命保険料控除の【旧制度】と【新制度】の違い
生命保険料控除制度には、【旧制度】と【新制度】があり、どちらの制度に該当するかで控除額の計算方法や上限が変わります。所得税、住民税の控除額の上限を分かりやすく解説します。
所得税
平成23年12月31日以前の契約に対しては、旧制度が適用されます。旧制度では、一般生命保険料と個人年金保険料のみが対象となっており、介護医療保険料は控除の対象外です。それぞれの控除適用限度額は50,000円で、合計適用限度額は100,000円です。
仮に所得税率が20%とすると、控除枠を最大限活用できた場合、毎年2万円、10年で20万円の節税効果が期待できます。
旧制度
年間の支払保険料等 (一般・個人年金それぞれに適用) |
控除額 |
---|---|
25,000円以下の場合 | 支払保険料等と同額 |
25,000円超50,000円以下の場合 | 支払保険料/2+12,500円 |
50,000円超100,000円以下の場合 | 支払保険料/4+25,000円 |
100,000円超の場合 | 50,000円(一律) |
新制度で控除の対象となるのは、一般生命保険料と介護医療保険料、個人年金保険料で、平成24年1月1日以降に契約した保険です。つまり、平成23年12月31日までに契約した介護医療保険料の場合は、平成24年以降になっても控除の対象外です。控除額の適用限度額がそれぞれ40,000円、合計適用限度額は120,000円です。
仮に所得税率が20%とすると、控除枠を最大限活用できた場合、毎年2万4,000円、10年で24万円の節税効果が期待できます。
新制度
年間の支払保険料等 (一般・介護医療・個人年金のそれぞれに適用) |
控除額 |
---|---|
20,000円以下の場合 | 支払保険料等と同額 |
20,000円超40,000円以下の場合 | 支払保険料/2+10,000円 |
40,000円超80,000円以下の場合 | 支払保険料/4+20,000円 |
80,000円超の場合 | 40,000円(一律)) |
新制度は、旧制度よりも1種類の保険料あたりの控除額が抑えられていますが、合計適用限度額が上がっています。
保険の見直しで新規契約や更新をすると、新制度が適用されて控除額が低くなる場合もあるため、契約変更前によく確認しておきましょう。
住民税
住民税も、旧制度から新制度に変わったことで、適用限度額が低くなりました。
旧制度
年間の支払保険料等 (一般・個人年金それぞれに適用) |
控除額 |
---|---|
15,000円以下の場合 | 支払保険料等と同額 |
15,000円超40,000円以下の場合 | 支払保険料/2+7,500円 |
40,000円超70,000円以下の場合 | 支払保険料/4+17,500円 |
70,000円超の場合 | 35,000円(一律) |
住民税も所得税と同様に、平成23年12月31日以前の契約は旧制度が適用されます。旧制度は、一般生命保険料と個人年金保険料のみが控除の対象です。適用限度額は、それぞれ35,000円、合計適用限度額は70,000円です。
新制度
年間の支払保険料等 (一般・介護医療・個人年金のそれぞれに適用) |
控除額 |
---|---|
12,000円以下の場合 | 支払保険料等と同額 |
12,000円超32,000円以下の場合 | 支払保険料/2+6,000円 |
32,000円超56,000円以下の場合 | 支払保険料/4+14,000円 |
56,000円超の場合 | 28,000円(一律) |
新制度は、一般生命保険料と介護医療保険料、個人年金保険料が対象です。控除の適用限度額が28,000円に下がり、合計適用限度額は70,000円のままです。
住民税率を約10%と仮定すると、控除枠を最大限活用できた場合、毎年7,000円、10年で7万円の節税効果が期待できます。
実際の節税効果の試算方法
節税効果は、控除額に所得税率・住民税率を掛けることで試算できます。所得税率は所得金額によって変わります。住民税率は、市町村によって変わりますが、目安は10%です。
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% |
40,000,000円 以上 | 45% |
そのため、所得税と住民税の節税効果は次の計算式で試算できます。
所得税の控除額×所得税率+住民税の控除額×住民税率=節税額の目安
※あくまで目安なので、実際の節税額と一致するとは限りません。正確に知りたい方は税理士にご相談ください。
生命保険料控除の計算 具体例で紹介
どの程度の保険料が控除されるのか、新制度を利用した控除額の計算方法について以下モデルケースで解説します。
モデルケース
以下のように保険料を支払っている人の所得控除額及び住民税控除額を計算してみましょう。
内訳 | ||
---|---|---|
年間払込保険料 | 一般生命保険料 | 120,000円 |
介護医療保険料 | 40,000円 | |
個人年金保険料 | 100,000円 | |
所得控除額 | 一般生命保険料 | 40,000円 |
介護医療保険 | 30,000円 | |
個人年金保険 | 40,000円 | |
所得控除額計 | 110,000円 | |
個人住民税控除額 | 一般生命保険 | 28,000円 |
介護医療保険 | 24,000円 | |
個人年金保険 | 28,000円 | |
個人住民税控除額計 | 70,000円(控除上限70,000円のため) |
仮にこの人の所得税率が20%、住民税率が10%とすると、節税額は次の通りです。
110,000円×20%+70,000円×10%=29,000円
旧制度と新制度の両方を契約している場合は?
旧制度と新制度の両方に該当する保険を契約している場合は、一般生命保険料と個人年金保険料に関して、それぞれ次のように選択できます。
①旧契約のみ申告
平成23年12月31日以前に契約したもののみ、旧制度の計算方法で控除額を算出し、申告する方法です。適用限度額は一般生命保険・年金それぞれで50,000円ずつです。年間の生命保険の支払額が60,000円の場合、60,000円×1/4+25,000円=40,000円となります。
②新契約のみ申告
平成24年1月1日以降に契約したもののみ、新制度の計算方法で控除額を算出し、申告します。適用限度額は一般生命保険・年金・介護医療それぞれで40,000円ずつです。年間の生命保険の支払額が50,000円の場合、50,000円×1/4+20,000円=32,500円となります。
③旧契約と新契約の両方で申告
旧契約は旧制度、新契約は新制度の計算方法で控除額を算出し、両方とも申告します。この場合、両方の控除額の合計適用限度額は40,000円です。今回のケースでは、旧契約40,000円、新契約32,500円のため、上限を大きく超えてしまうため、控除額は40,000円のみとなります。
他に、個人年金保険料を契約しているのであれば、旧契約と新契約の両方を申告するより、新契約と旧契約のいずれかだけ申告した方が多く控除できます。
生命保険料控除の申告方法
所得控除の対象になる生命保険に加入していても、申告しなければ控除は受けられません。自動的に控除されるわけではないため、注意が必要です。続いて、会社員と自営業者の申告の仕方を簡単に解説します。
会社員の場合
会社員は、年に1度の年末調整で申告することが一般的です。年末が近くなると会社から年末調整書類が配布されるので、そこに保険料や控除額を記載して提出します。控除を適用するには、実際に保険料を支払ったことを証明する書類(もしくは電子データ)が必要です。
ただし、会社員でも確定申告が必要な場合があるため注意が必要です。このケースについては、次の後ほど解説します。
自営業者の場合
自営業者は、決算書等を添付して確定申告をします。その時に、生命保険の内容を入力(もしくは記載)して、生命保険料控除を適用します。自分で確定申告する場合、支払った保険料などの情報を一つひとつ入力しましょう。税理士に確定申告を依頼する場合、生命保険会社から発行される証明書を税理士に渡しましょう。
生命保険料控除の年末調整の仕方
年末調整は年に1度のことなので、手続き方法に迷ってしまうこともあるでしょう。続いては、年末調整で生命保険料控除を受けるための手続き方法を分かりやすく解説します。
年末調整とは
年末調整とは、会社が所得と税金を計算し、社員の代わりに税務署に申告してくれる制度のことです。
給与明細を見ると、毎月の給与から所得税が天引きされていることが分かります。しかし、これはあくまで「仮の金額」で、年末調整の時に正しい金額に計算し直します。そして、正しい金額より天引き額が多ければ"還付"、少なければ"追加徴収"となります。これが年末調整です。
勤め先など一ヵ所から給与を受け取っていて、給与以外に所得がないという人は、基本的には年末調整だけですみます。その場合、自分で確定申告する必要はありません。
年末調整は、社員区分にかかわらず受けられます。正社員でも、アルバイトでも、パートでも、会社は年末調整をしてくれます。ただし、年末に会社に在籍していることが要件なので、年の途中で退職した人は、特別な事情がない限りは年末調整の対象にはなりません。
また、給与所得が2,000万円を超える人も自分で確定申告をする必要があります。
年末調整で必要な書類
年末調整で生命保険料控除を適用するには、保険料を実際に支払ったことを証明する書類を添付しなければなりません。
10月頃に生命保険会社から「生命保険料控除証明書」が届くので、年末調整まで大切に保管しておきましょう。なかなか送られてこない時は、生命保険会社に問い合わせてみてください。
証明書を紛失した場合は再発行してもらえるので、提出期限に間に合うよう申請しましょう。発行までに時間がかかることもあるので、早めに連絡することが大切です。
最近では、証明書の電子発行に対応している生命保険会社も増えてきました。ただし、会社の年末調整ソフトによっては、電子データでの提出ができないこともあるため、注意が必要です。
年末調整の手続き方法
年末になると、会社から扶養控除等(異動)申告書や保険料控除申告書などの年末調整書類が配布されます。生命保険料控除を適用する場合、保険料控除申告書に保険料や控除額などの内容を記載し、生命保険料控除証明書を添付して会社に提出します。
書き方については、国税庁のホームページに記載例も公開されるので、分からない時はチェックしてみてください。
会社が電子データで提出可能な年末調整ソフトを使用している場合、証明書を添付しなくても、社内メールなどで提出できる場合があります。
今後、マイナポータルとの連携が進むことで、年末調整の手続きは簡略化されていく見込みです。今は過渡期にあり、会社によって使用しているソフトなども異なるため、自分でも制度への理解を深めて間違いなく手続きをしましょう。
年末調整時の注意点
年末調整では、1月1日~12月31日の1年間の所得と税金を計算します。そのため、控除対象となるのは、その年に負担した生命保険料です。
「昨年の年末調整で提出し忘れていたから......」という場合も、過去にさかのぼって年末調整で控除してもらうことはできません。なお、自分で還付申告の手続きをすれば、過去5年までさかのぼって控除を適用できます。
確定申告が必要な人
確定申告が必要なのは、例えば次のような人です。
- 給与所得が年間2,000万円を超える人
- 副業所得の合計額が年間20万円を超える人
- 不動産事業を行っている人
- その他自営業を行っている人
- 医療費控除を適用する人
- 年の途中で退職した人
その他、5ヵ所を超えてふるさと納税を行った人なども、確定申告が必要です。
確定申告をする場合、年末調整で生命保険料控除を適用する必要はありません。勤務先から受け取った源泉徴収票や、生命保険会社から発行された生命保険料控除証明書の内容を、自分で確定申告書に一つひとつ入力し、税務署に申告します。
なお、e-Taxとうい国税電子申告・納税システムを使って申告する場合、生命保険料控除証明書の添付は省略が可能です。ただし、申告から5年間は書類の提示を求められる可能性があるため、証明書は自分で保管しておきましょう。
AIほけんは生命保険料控除の対象 保険選びの判断材料に
家計を楽にするための方法として、「節税」は、「昇給」や「節約」以上に大きな効果をもたらすことも少なくありません。生命保険に一度加入すれば、保険料を払い続けている間は継続的に生命保険料控除を適用できます。年単位でみると、数十万円お得になることもあります。
「難しそうだから」と後回しにせず、生命保険料控除を最大限活用することが大切です。生命保険料控除の対象になるかどうかを、保険選びの1つの判断材料にしてみてはいかがでしょうか。
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※本記事は2021年7月1日時点の内容であり、将来の商品改定によっては内容が変更になる可能性がございます。