住まい
社会人になって一人暮らしを始めます。賃貸でも火災保険は必要ですか?

堀口 結弦さん(仮名 22歳 会社員)のご相談
この春に新社会人になります。これまで実家で暮らしてきたので、初めての1人暮らしです。
社会人として、これから保険なども自分でしっかり考えようと思いますが、火災保険については、加入すべきかどうか悩んでいます。1人暮らしにあたり、最低限の家電や家具なども購入しましたが、どれもそれほど高価なものではありません。自分のような場合でも火災保険は必要でしょうか?
もし、必要であるならどのくらいの金額で加入するのが良いでしょうか。
堀口 結弦さん(仮名)のプロフィール
| 職業・収入 | 貯蓄額 | 住居の形態 | その他 |
|---|---|---|---|
| 会社員・21万円/月 | 50万円 | 民間の賃貸住宅 (ワンルームマンション) |
通勤用の自転車を保有 趣味で50ccバイクを保有 |
井上 信一
(いのうえ しんいち)先生
ファイナンシャル・プランナーからの
アドバイスのポイント!
- 隣家や大家に対する損害賠償責任は想像以上に甚大になる可能性があり得ます
- 災害や隣家からのもらい火等で損害を被っても、何の補償を受けられない場合があり得ます
- 補償される災害を絞ることで保険料は変わります 留意すべきは震災と水災!
賃貸でも火災保険は必要です。万一、出火元となった場合の各種損害賠償補用特約も忘れずに!
堀口さま、春から新社会人になられるとのこと。おめでとうございます。また、ご相談ありがとうございます。初めての1人暮らし、ご実家での生活とはずいぶんと勝手が違うことでしょう。
まず、結論です。
仲介不動産会社や大家(不動産管理会社)によっては火災保険加入が必須の場合もありますが、たとえ義務付けられていなくても、1人暮らしとはいえ賃貸での火災保険は間違いなく必要です。とはいえ、加入する保険会社や保険商品の補償内容は、一般的に自分で選ぶことができます。必要な補償対象など、是非、考えていきましょう。
家財一式の買い替え費用を考えましょう
火災保険は、火災だけでなく、家周りについて幅広く台風や大雨などの自然災害、消火活動等による水濡れや盗難などによって被害を受けた際の損害を補償してくれます。補償目的は「建物」と「家財」とに区分されており、必要に応じ、その両方またはいずれか一方を指定して加入します。例えば、持ち家の場合は「建物」と「家財」について検討する必要性がありますが、賃貸の場合、「建物」は貸主が考えるべき責任なので、借主が火災保険の加入を検討するのは「家財」のみです。
さて、いきなりですが、ご自身の家財が火災や災害で損害を負ってしまった場合の費用を考えてみましょう。まず、部屋に住めなくなったとしても、いつまでも仕事を休む訳にはいきませんね。
- 働くためには、服や靴や鞄のほか時計、アクセサリー等の身の回り品はすぐにでも買い直さねばなりません。シャツ・スーツや靴などは1セットあれば済むという訳にはいきませんね
- 最悪、今や日常生活に必須のスマホも被害にあったらどうでしょう?代わりの機種は急務です
- 引っ越しをするにしても、修繕後に再び現在の部屋に住むにしても、当面の居住費がかかります
次に、落ち着いてきたら本格的な生活の再建が求められます。いま、部屋の中にある品々を見回してみましょう。いずれも、新たに買い直す必要性があるものではないでしょうか?
- クローゼットや棚にある四季折々の衣類・靴・カバン等
- ベッド等の寝具
- 冷蔵庫・電子レンジ・掃除用具のほか洗濯機・テレビ・PC等の家電製品
- 調理器具や食器類
- テーブルや食器棚・ソファー等の家具
- 書籍や文具類など
これらに加え、趣味や娯楽があればその品々も、また収集したくなる可能性はありませんか?
火災保険では、自宅に駐輪・駐車中の自転車や総排気量125cc以下のバイクも補償家財に含まれます。
損害保険会社等のサイトでは、平均的な「家財の補償額」を試算できるものも多く、20代1人暮らしの場合で300万円程度と表示されることもあります。
この金額の多寡については、もちろん個々で異なると思われます。ですが、上述のとおり"家財"の範囲とは想像以上に幅広いものです。火災保険における理想的な家財の補償額(保険で契約しておくべき保険金額)とは、以下を概算でイメージすると目安になります。
「部屋にある全ての品の再取得額(リース家財等の補償を含む)」-「もう必要のない品の再取得額」
身の回りの品々、その中にはお気に入りの品やこだわりの品もあるでしょう。そういった品々が一切消失してしまった場合に、「自分らしく快適な生活を送るために、その品をもう一度手に入れるために必要なお金がいくらかかるのか?」、その額が家財を目的とする火災保険に必要な保険金額なのです。
なお、以下の2点には注意しておきましょう。
①必要以上に過大な保険金額で契約しないこと
生命保険や損害保険の種類は多種多様ですが、少なくとも火災保険は1~2年(最長5年)の保険期間中に何事もなければ、満期金や返戻金等はなく掛金(保険料)が掛捨ての扱いとなります。
このため、例えば300万円の保険金額で契約しても、そのコストである掛金(保険料)は年間数千円程度(補償内容をかなり充実させても年間1万円程度)と、費用対効果は相当高いといえます。
一方、損害保険の場合に実際に支払われる保険金の額は実損額を厳しく査定されるので、生命保険のように契約した保険金額をそのまま受け取れるとは限りません。加えて、建物の損害評価に比べ、家財の損害評価の査定は曖昧な部分も少なくないので、過大な保険金額で契約しても無意味になる可能性があります。
契約の際には、建物の構造・年齢・世帯人数等による概算保険金額例が提示されますので、基本的にはその提示額程度で契約するのが無難でしょう。
②1個または1組の価額が30万円を超える高価な品は明記物件として契約すること
明記物件とは、「客観的に金額を査定するものが難しい高額な家財」等であり、一般的には貴金属や美術品などが該当します。これらが損害を被っても、家財一式の中には含められず補償されないこともあるので、家財一式とは別に具体的に明記して火災保険を契約する必要があります。なお、高価で希少な時計は明記物件に含まれる場合もあり得ますが、ハイスペックなゲームPCなどは市販価格を調べることができるので明記物件に含まないのが一般的です。判断がつかないようであれば契約の際に保険会社に問い合わせてみると良いでしょう。なお、地震保険では、明記物件の扱いはありません。
各種損害賠償補償保険は、とにもかくにも必ず必要
火災事故に関する日本の法律は大変古く、やや理解しにくい特徴があります。
例えば、「"軽過失"での"失火"が原因の火災で他人の物を燃やしてしまっても、火元となった者は延焼損害に対する賠償責任は負わなくてもよい」と解釈されます。つまり、隣の部屋からの出火による火事で自分の家財が全焼しても、法律的には弁償されない可能性があります。
かなり理不尽な話ですね。だからこそ、自分の家財は自分の火災保険で守る必要があるのです。
逆に自分が火元となってしまうケースを考えてみましょう。
"軽過失"による事故と認定されれば、他人に対する法律的な損害賠償責任は負いません。しかし、"故意"である場合はもちろん、"重過失"による事故とみなされると法律上の損害賠償責任が科されてしまいます。"軽過失"と"重過失"との線引き"は非常に難しく、過去の判例でもケースバイケースです。「いつもは気を付けていたけど、その時だけたまたま些細な不注意で起きた失火」でも重過失に該当することもあり得ます。
また、"失火"には爆発による事故は含まれないため、ガス爆発が原因の火災は軽過失でも損害賠償を負います。その賠償額は被害を与えた相手の家財の再取得価額や慰謝料等々が加算されます。物の損害や逸失利益だけでなく相手の死傷にまで関わる事故ともなれば、最悪、億に及ぶ単位の額にもなり兼ねないのです。
さらに、火災事故に関する法律は"不法行為責任"についての規定に留まるので、"債務不履行責任"には及びません。つまり、賃貸契約時に大家と結ぶ「賃貸借契約書」の内容を守ることは絶対であり、「原状回復義務」は、たとえ軽過失であろうが果たさねばなりません。
自分の部屋の壁や天井を焦がすだけならなんとか貯蓄の中で弁償できるかもしれませんが、近隣の部屋まで燃やす、なんなら建物一棟まるごと燃やしてしまったり、他人の死傷に関わったりする可能性などを想像すれば、もはや火災保険に入るか否かを悩むレベルの問題ではないと理解できるでしょう。こうなると、「必要な各種損害賠償補償を得るためにも、最低限の金額でも良いから家財を目的とする火災保険に入るべき」と言い切ってしまっても、個人的にも過言とは思えません。保険での補償が無ければ、一生かけても弁済し切れない額の責任を負う可能性もゼロではないのですから。
さて、こうした各種損害賠償補償保険は、私たち契約者側からみれば驚くほど費用対効果の高い保険です。例えば、保険金額1億円でも1年あたりの保険料は千円~千数百円程度、保険金額が倍の2億円でも、単純に保険料が2倍になるわけではありません。
逆に、保険会社から考えると、決して割の良いタイプの保険商品ではないので、単体では加入できず、別の保険、例えば、自動車保険や傷害保険等に、「特約」という形でしか契約できないのが一般的です。
よって、基本的にほぼ一生涯に渡って加入する火災保険に、これらを特約として付保しておくのが安心できる組み合わせといえます。その、必須となる各種損害賠償補償特約としては、主に以下が挙げられます。
個人賠償責任補償(特約)
隣室等へ延焼させた場合に負う法律上の損害賠償責任を補償するほか、日常生活における様々な事故等による他人への損害賠償責任を補償する(自分の業務中の事故、親族間事故等は除く)。最近では、認知症の方が公共交通機関等へ損害を与えた場合の損害賠償責任まで補償されるなど、自身の重過失による損害賠償責任をも補償する保険であり一生に渡り必要。様々な保険に特約として付帯できるが、火災保険に付帯するのが安心。
なお、自転車で走行中の事故は補償されるが、バイク(50ccの原付バイクを含む)による事故は自動車保険の範疇のため、補償対象外となる
借家人賠償責任補償(特約)
賃貸住宅の大家に対する損害賠償責任を補償する保険であり、賃貸住宅に住む人には必須の保険
一般的に火災保険に付帯する
類焼損害補償特約
法律上の損害賠償責任を負わない場合でも、延焼先の隣家等の火災保険では補償しきれない損害額を賄う保険
一般的に火災保険に付帯する
その他
一般的に火災保険に付帯する特約として、臨時費用補償特約(緊急時の宿泊費等の臨時費用を補償)や失火見舞補償特約等(延焼先への見舞金等を補償)を付保できる場合もあるため適宜、判断する
補償する災害等は住む環境で選びましょう
一昔前の火災保険の補償内容は、概ねどこで契約しても同じでしたが、昨今では保険会社により、担保する補償範囲の区分や選択肢を選べます。担保される補償を狭めれば狭めるほど、当然のこと保険料は割安となりますが、保険会社により区分方法が異なるため単純な比較はできません。また、極限まで補償を狭めても期待できるほど保険料の大きな差異が生じないケースもあります。以下は、担保する補償区分の一例です。
- 火災、落雷、破裂、爆発
- 風災、雹災、雪災
- 建物外部からの物体の落下、飛来、衝突等
- 給排水設備の事故等による水漏れ
- 騒擾、労働争議に伴う暴力、破壊行為
- 盗難
- 通貨・預金証書等の盗難
- 水災
- 地震・噴火・津波による災害(火災保険の補償ではなく、別途、地震保険を特約で契約)
上記1~7については、保険会社により区分方法が変わり、とくに3~7については基本補償から外すことができる場合もあります。ですが、保険料に大きな差異がないのであれば、補償対象は広範囲にしておくのが無難でしょう。
一方、保険料の多寡へ少なからず影響する「8 水災」の補償を入れるかどうかは、昨今の火災保険選びの重要なポイントとなります。
近年の異常気象を鑑みると、台風だけでなく大雨やゲリラ豪雨等など、水災による被害は甚大です。損害保険会社としても、水災に対する保険金支払いが高額化しており、これまでは全国一律であった水災補償の保険料が、現在では建物所在地に応じて細分する措置を講じています。
台風による突風での被害は予測できないとしても、台風や暴風雨を原因とする洪水・高潮・土砂崩れ・河川の氾濫等による床上浸水などの被害が少ないと思える高地や高台に建物が建っているのであれば、「水災」補償は外すのも一考です。
逆に、被害を受ける可能性がある低地であるなら、「水災」は補償に加えておくべきでしょう。
最後に、「9 地震・噴火・津波」による「火災・損壊・埋没・流失」の損害については、この国において最も甚大かつ広範囲に及ぶ自然災害と捉えられており、火災保険に特約として付帯する地震保険でしか補償されません。契約可能な保険金額も火災保険の保険金額に対して、最大でもその半額(50%)に留まります。
運用も国が主体となる官民一体方式で、補償内容、および建物所在地の都道府県や建物の構造ごとの保険料率は、どの損害保険会社で契約しても同じです。
地震保険の保険料は、火災保険と比べても相対的に割高であることは否めないので悩ましいところでしょう。参考までに、火災保険契約に地震保険を付帯している割合は全国平均で70%超、全世帯のうち地震保険を契約している世帯の割合は全国平均で約35%となっています。とはいえ、この数値は過去に地震災害を経験した都道府県であるかにどうかによってもかなりの差異があるので、気になられる場合は以下の出所元を調べてみると良いでしょう(出所:損害保険料率算出機構の公表データ 2024年度版)。
地震保険では、自分の心身への保障(補償)はありません。また、他人に対する対人損害賠償補償や対物損害賠償補償とも無関係であり、地震保険の補償対象となるのは、あくまでも自分の財産の損害に対してのみです。地震が原因の火災や倒壊等で全て失ってしまっても諦めがつく、と思える財産しか持たないうちは、地震保険は今後に要検討と割り切る考え方も否定できません。
先述のとおり、火災保険に加入するか否かの結論は、「必要」と述べさせていただきました。その理由として、家財が全損した場合にそのすべてを買い直す費用は存外に高額である点もさりながら、極論すれば、絶対に必要な補償である各種損害賠償補償保険が単体では契約できないため、特約として付帯する保険として火災保険が最も適している(あるいは特約によっては火災保険にしか付帯できない)ためです。
限られた収入の中で使える支出には限りがあります。「貯蓄と支出」、あるいは「貯蓄での備えと保険での備え」は、バランス感覚を持つことが最も重要なのです。

| 執筆者 | 井上 信一 (いのうえ しんいち) |
|---|---|
| Webサイト | https://www.shinichi-inoue.com/ |
| プロフィール | ファイナンシャルプランナー(CFP®)。大学卒業後、大手メーカーでの業務の中でライフプランの必要性を肌で感じFPとなる。以後、FP教育会社、リスクマネジメント会社のFP部門を経て2010年に独立開業。年間約100件の相談、約500時間の講師業のほか、企業の福利厚生相談、執筆・監修等にも従事。「最終的にお客様が選ぶ道は1つでも、FPの付加価値としていかに多角的な発想や選択肢を提案できるか」を信条としている。成年後見人として地域福祉への貢献活動もおこなっている。 |





